2010年6月アーカイブ

 モータリゼーション"その言葉を懐かしく感じる人も多いだろう。自動車が大衆に広く普及して、生活のために欠かせないものになる現象であり、日本では東京オリンピックに前後して道路網が整備されるのとあわせて、モータリゼーションが浸透したと言われている。
 一般の人が生活の道具として自動車に乗ることで、社会も変わった。好きなときに好きなところに行けるようになり、いったんは「移動の自由」を謳歌した。人々は都心を離れて郊外に住み、週末には郊外の大型ショッピングセンターに家族揃って買い物に行くという新たなライフスタイルを生んだ。
 その反面、モータリゼーションの浸透した地域は同じタイプの社会に変化し、世界中で典型的な「郊外」の景色が生まれた。さらに自動車の普及は、自動車事故、渋滞、環境の悪化に加えて、化石燃料の枯渇や地球環境問題という人類の存続まで揺るがしかねない問題までも生み出してしまった。そして、自由と豊かさの象徴であった自動車は、一転して悪者扱いされるようになった。
 ところが、最近になってモータリゼーションを考え直す動きが出ている。大きな潮流となりつつあるのが、EVをはじめとするモーター駆動のモビリティだ。
 6月29日に発足した「電気自動車普及協議会」も、そうした大きな潮流の中で生まれた団体だ。まず、主催がベネッセホールディングスの会長であることが目をひく。同氏は、ナノオプトニクス・エナジーの藤原洋社長、ガリバーインターナショナルの羽鳥兼市会長、そして長年EVの研究に力を注いできた慶応大学教授の清水 浩氏と共にシムドライブ社を創設したメンバーの中心的存在。この会の発足にあたっては、「EV産業」という新たな産業創出の視点を念頭において、EVの普及促進や啓蒙活動などを行なっていく方針だ。
 これまでにも自動車メーカーが独自にEVを開発したり、政府主導で積極的にEV開発を促してきたが、一方で「エンジン車が主役のモータリゼーション」からなかなか脱却できなかったのも事実だ。逆の視点から見れば、エンジンを積んだ自動車というのは、それだけ洗練されていて、効率のいい乗り物なのだ。
 EV協議会では、旧来の自動車残業の枠にとらわれずに、研究者、EVの普及を促す事業を展開する企業、電気モーターやパワーエレクトロニクスなどEV化によって新たに自動車産業の一部になるであろう分野の企業、自動車評論家といった異業種にEVという横軸を通した構成になっている。さらに、既存/新規を問わずEV事業への参入を促進し、EVの広報宣伝や政策提言を通じて、EVによるモータリゼーションのために必要な社会基盤の整備まで視野に入れて活動をするという。
 事実、ここ数年で自動車の世界は大きく変化している。従来の自動車産業のみならず、エネルギー、パワーエレクトロニクスといった様々な分野が加わって、大きなうねりとなって社会全体まで変える勢いで激変している。もちろん、この動きは日本のみならず、ヨーロッパ、アメリカ、そして中国などの成長国を含めた世界的な潮流になろうとしている。その変化の波の中に、EV協議会という横軸が通ることで企業や個人がどのように変化の波に乗れるか。この協議会の存在意義が試されるところである。
 
(川端 由美)

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